田畑がアパート、戸建に一変する!?生産緑地の2022年問題
2017/05/25
2022年以降、
都市部にある畑や果樹園などの農地が、
急速に消えていくかもしれません。
いま、不動産業界では
「生産緑地の2022年問題」が
にわかに取沙汰されています。
今年の3月には経済誌『エコノミスト』でも
大きく取り上げられました。
「生産緑地」とは
住宅や商業施設としての利用を定められている区域である
市街化区域内で、自治体に指定された
500平米以上の農地のことです。
全国に1万3500ヘクタール、
23区内だけでも東京ドーム約100個分にもなる
約450ヘクタールの生産緑地が存在しています。
農地としての利用に限定されている
これらの土地が、2022年以降、
アパートや分譲住宅などに利用できる
宅地になっていく可能性があるのです。
生産緑地の問題は、直接的には、
農業を行う所有者とその財産を相続する
子どもにとっての問題です。
ただ、住宅の需給バランスが大きく崩れる
可能性があるとして、専門家が警鐘を鳴らし始めており、
不動産投資を考える私たちも知っておくべき重要な問題です。
そこで今回のコラムでは、
「生産緑地の2022年問題」と、
その影響についてご紹介していきます。
そもそも生産緑地とは
どのような土地なのでしょうか。
生産緑地とは、
生産緑地法に基づく市町村からの指定を受けた
農地のことを言います。
都会の住宅地の真ん中に、
広い畑や果樹園が残っている風景を見かけたことがあるかもしれません。
こうした土地がいわゆる生産緑地です。
市街化区域内にあり、500平米以上の農地の所有者は、
生産緑地としての指定を自治体に申請することができます。
生産緑地に指定されれば、
固定資産税などの税制面において
優遇されることになります。
そのかわり、所有者には農地として長期間、
その土地を活用し続けることが義務付けられ、
建物の建築などは、
厳しく制限されているのです。
1992年の法改正で、
生産緑地の指定から30年を経過した場合、
市町村に対して、指定を受けた土地の買い取りを申し出ることが
できるようになりました。
法改正から30年後の節目の年が、
2022年なのです。
1992年頃に指定を受けた生産緑地は、
全面積の約8割を占めています。
2022年には、買い取りの申し出が
殺到する可能性があると言われています。
では、何が問題となっているのでしょうか。
これまでも所有者が死亡したり、
農業に従事できなくなった場合は、
自治体に買い取りを申し出ることができました。
ところが過去の事例では、
ほとんどの自治体では申し出があっても、
生産緑地の買い取りを行っていません。
自治体も財政難のため、
買い取ることができないのです。
買取不可とされた土地は、
自治体が他の農家に買い取りをあっせんしますが、
引き取り手は簡単には現れません。
そうなると、生産緑地の指定は解除され、
宅地になる可能性が極めて高くなります。
2022年以降はこういった事例が、
飛躍的に増えると予想されているのです。
所有者が続々と買い取りを申し出ると言われている理由は、
高齢化や農業の担い手不足です。
農業従事者の平均年齢は、
現在67歳にのぼっています。
息子、娘世代は企業に勤めており、
後継者不足が農業全体の大きな課題です。
生産緑地で子どもたちが農業を続ける場合、
相続税は、納税猶予という扱いで
相続税の支払い額を減らすことができます。
ただ、問題は相続人である子どもたちが土地の相続後に、
農業を辞めてしまうケースです。
生産緑地の指定が解除されると、
猶予されていた相続税分を
後から支払う義務が生じるのです。
こういった事情から、
子どもたちが農業を継がないことが明確であれば、
所有者の生前から相続対策を行う事例も出てきました。
指定解除を受ければ、税制優遇はなくなりますが、
宅地に転用して、土地は分譲住宅のディベロッパーに売却し、
現金化することができます。
また、宅地になるのでアパート経営を行い、
相続税の圧縮を狙うというケースもあります。
実際、ハウスメーカーはこうした動きを見据えて、
各地でセミナーも開催しています。
そのため今後、
生産緑地の指定が解除された土地では、
戸建が分譲されたり、節税対策のアパートが
大量に供給されることが懸念されます。
相続税の節税を目的にアパートを建てたとしても、
そもそも立地が良い土地でなければ、
賃貸需要は見込めません。
いまでさえ、地方や郊外ではアパートは供給過剰で、
空室リスクも高いと言われているのに、
これからさらにアパートが供給されようとしているのです。
地方や郊外では、
さらに、賃貸経営が厳しくなることが予想されます。
もちろん、政府も手をこまねいているわけではなく、
急激な生産緑地の減少に歯止めをかける法改正が行われましたが、
効果は未知数です。
2022年問題が実際のところ、
どのくらい賃貸市場に影響を及ぼすのか、
現時点では分からない部分はあります。
ただ、農家の高齢化や担い手不足は
まったく解消の糸口が見えません。
農業を継ぐ人がいなければ、
農地が宅地へと替わるのは避けられないでしょう。
大都市圏でも、
生産緑地が点在している地域では
需給バランスが崩れるリスクがあることを、
認識しておきましょう。
これからの賃貸経営は、
立地選びがますます重要になってくるはずです。
日本財託 マーケティング部 横尾 幸則(よこおゆきのり)
◆ スタッフプロフィール ◆
埼玉県大宮市出身の29歳。
マーケティング部で、セミナーやHPの運営、
メールマガジンの執筆や広報活動を通じて
東京・中古・ワンルームの魅力を多くのお客様に伝える。
最近の主食は、妻が毎日具を変えて作ってくれる
手づくりおにぎらず。