「しまった」を防ぐ!事例で学ぶ相続税と保険の落とし穴
2017/08/31
いま、相続税を支払う人が増えています。
2015年は過去最多となる約10万3千人が、
課税対象者となりました。
前年の課税対象者が5万6千人でしたから、
約2倍にもなります。
これだけ課税対象者が増えたのは、
2015年1月に実施された相続税制の改正です。
相続財産に対する基礎控除が
4割も削減されたという話を、
聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
さらに、税務署は生命保険の申告漏れにも、
メスを入れ始めているといいます。
生命保険には、相続人一人につき、
500万円の非課税枠があります。
たとえば、相続人が二人いる場合、
1000万円の現金を1000万円の保障がある生命保険に組み換えることで、
その分だけ、課税対象となる資産を圧縮できるのです。
そのため、相続税の対策で生命保険を活用するのは、
『王道』となっています。
ただ、保険の契約形態や保険料の支払い方法によっては、
意図せず相続財産とみなされてしまうケースもあります。
面倒だと放っておくと、本来支払わなくてもよかった
税金がかかる可能性も出てくるのです。
そこで今回のコラムでは「うっかり課税」を引き起こす
相続と保険にまつわる落とし穴を2つのケースで
紹介したいと思います。
落とし穴の一つ目は、
「名義保険」です。
名義保険とは、
保険の契約者と保険料を負担する人が
別になっている状態の保険のことを言います。
名義保険の事例で指摘が入ったのは、
≪契約者≫ 息子
≪被保険者(保障の対象者)≫ 息子
≪保険金受取人≫ 孫
という生命保険です。
見ての通り、親は契約に
一切関わっていない保険です。
この形の契約だけなら何の問題もなく、
相続には全く関係してきません。
ところが、この事例では
この保険の保険料を息子の代わりに、
実質的に親が負担していたのです。
このような場合、親が亡くなった時点での
解約返戻金相当額が相続財産としてみなされ、
課税の対象になってしまうのです。
『かわいい孫のために...』と
全くの善意で親が保険料を払っていたとしても、
相続税の申告対象財産となってしまいます。
なぜなら、税務署は契約の形より、
実際に誰が保険料を負担していたかを重視するからです。
親が払い込んだ保険料とその運用益は、
親の死亡に伴い、親から息子へと引き継がれたと解釈されます。
そのため、相続財産の一部として扱われ、
申告が必要になるのです。
また、次のような形の保険にも注意が必要です。
≪契約者≫ 息子
≪被保険者(保障の対象者)≫ 親
≪保険金の受取人≫ 息子
この契約形態で親が死亡した際の保険金は、
息子の一時所得とみなされ、
所得税および住民税の課税対象となります。
ただこのケースでも、やはり保険料の負担者が、
実質的に親であれば、
先ほどと同様に相続財産とみなされます。
では、名義保険だと後から
税務署に指摘されないようにするには、
どうすれば良いのでしょうか。
それは、贈与として
しっかり記録を残すことが一番の対策になります。
たとえ家族間の資金移動であっても、手渡しではなく、
銀行振り込みで客観的な記録を残しましょう。
また、贈与された側、この場合は息子自身の口座から
保険料を引き落とし、
毎年保険料控除の申告も行うことが大切です。
落とし穴の二つ目は、
相続に伴い、契約者として保険契約を引き継ぐ場合です。
たとえば、次のような形で保険に加入していたケースで
考えてみましょう。
≪契約者≫ 父親
≪被保険者≫ 母親
≪保険金の受取人≫ 息子
契約者である父が亡くなったので、
息子が保険契約を引き継ぐことになりました。
母親はまだ死亡していないので、
当然、保険金の支払い自体は発生しません。
ところが、この保険も相続財産の一部として、
申告と課税の対象になります。
なぜなら、この保険契約には父親が生前に払い込んだ
保険料分の財産価値があるからです。
相続した時点で、保険を解約した際に戻される
解約返戻金に相当する額が相続財産評価となります。
もちろん、申告をしていなければ、
申告漏れと指摘され、思わぬ相続税が発生する可能性が生じるのです。
本来、生命保険は前述の非課税枠以外にも、
相続対策を考える上では、
有効かつ利用しやすい選択肢の一つです。
受取人を指定することによって、生前の意思を尊重し、
受取人固有の財産として遺すことができます。
また、遺産分割協議を待たずして
すぐに活用できる現金として下ろせる点もメリットです。
ただ、そもそも保険の加入状況を家族間で
共有できていなければ、活用することができません。
それどころか、この2つのケースのように、
「良かれ」と思っておこなった保険料の肩代わりが、
後から相続する世代の負担を
増やしてしまう恐れすらあります。
また、来年以降は契約者の死亡が
保険会社から税務当局に法定調書という形で
通知されるようになります。
申告漏れにはより厳しい対応がされる
可能性が高くなります。
保険会社からは年に一度、
必ず契約内容のお知らせの書類が届きます。
保障の内容を家族の間で共有して、
万が一の際にしっかり遺し、
使えるようにすることが大切です。
加入状況が書類だけではよく分からない場合は、
専門家に相談してみるのも良いでしょう。
日本財託では、相続や保険に関する
ご質問やご相談を承っております。
経験豊富な保険のコンサルタントがお話をうかがい、
あなたのご家族に合ったプランをご提案しますので、
ぜひお気軽にお声かけください。
日本財託 資産コンサルティング部
アセットプランニング課 長谷 和寿(ながたにかずひさ)
◆ スタッフプロフィール ◆
神奈川県綾瀬市出身の35歳。
アセットプランニング課で、相続対策や法人設立など、
お客様の資産を守り殖やしていくお手伝いをしている。
10年前、海外青年協力隊でブルガリア赴任中、
一月で物価が2~5倍以上になるインフレに遭遇。
3日間断食せざるをえない程の貧困生活に
陥ったことを機に、お金のことに興味を持ち、
帰国後、FP資格を取得する。