足の踏み場もないほどあふれるゴミの山!入居者様の再起を目指して寄り添った6年間
2022/02/24
空室リスクと並んで不動産投資の代表的なリスクである「滞納」。
その多くが振り込み日を忘れていたり、
口座残高が不足していることが理由ですが、
なかには、心身の健康を損なってしまって働けない方、
また、コロナ禍により働きたくても働き口のない方も増加しています。
こうした場合、事情を考慮せずに家賃の支払いばかりを求めてしまうと、
かえって問題を悪化させてしまいます。
事情があって滞納を繰り返してしまう入居者様とは誠意をもって対応し、
必要があれば自治体の給付金制度などをご案内したうえで、
家賃の滞納が続かないよう取り組んでいます。
そこで今回のコラムでは、滞納を繰り返していたある入居者様に寄り添い、
無事、生活を再建した事例をご紹介します。
新宿区の物件にお住いの60代のAさんは、
2016年に当社で物件の管理をお預かりした時から、そのお部屋に住んでいました。
当初は家賃をしっかりお支払い頂いていましたが、
2018年頃から滞納が目立つようになりました。
Aさんは過去に重い病気を患ったことがあり、生活保護を受けられていました。
しかし、仕事への意欲はあり、可能な範囲でアルバイトはこなしていたのです。
これまで毎月しっかり家賃が振り込まれていたにもかかわらず、
滞納が頻繁に続くようになった状況を心配になった私は、
Aさんを訪問することにしました。
事情を聴くと、頼まれると断れない性格が災いして、
知人にお金を貸してしまい、手元にお金がなくなってしまったというのです。
その後もたびたび家賃が遅れてしまうことから、オーナー様と協議し、
次回の更新時には、退去いただく形で話を進めることとなりました。
退去の手続きを進めるため、
何度も訪問をしましたが、Aさんが部屋から出てくることはありません。
訪問の趣旨を記載した手紙と退去の手続きに関する書類を投函しましたが、
返事のない日が続きます。
ただ、訪問するたびに投函していた手紙や書類はポストからなくなっていたため、
事情を把握していることは伺えます。
その後もAさんを訪問しましたが、お会いすることはできませんでした。
更新時期が近づいた2020年1月、
結局Aさんとはお会いする事は出来ていませんでしたが、
退去手続き書類のご返送があり、当月末の退去が決まりました。
しかし退去当日、立ち合いのため現地に向かってみるとAさんは不在だったのです。
すぐに自治体の生活保護課に連絡をしたところ、「退去の話は聞いていない」と返答があり、
Aさんが転居の準備を進めていないことがわかりました。
Aさんに電話をしても一向につながらないことから、
翌日、生活保護課のケースワーカーと保証会社の担当者にも立ち会っていただき、
部屋の中に入室してみることにしたのです。
「Aさん、いらっしゃいますかぁ」
恐る恐る扉を開けると、廊下には足の踏み場もないほどのゴミの山。
台所のシンクに入りきれず、IHコンロのうえにまで積み重ねられた汚れた食器。
浴槽は長い間掃除がされていなかったのか、黒いカビや汚れがびっしりとついています。
居室にも使われなくなった荷物が腰の高さほど積み上がり、
とても生活できるようには見えません。
結局その日、Aさんと連絡を取ることはできませんでしたが、
解約通知のご返送を頂いていることから、
保証会社の担当者と一緒に荷物を撤去する手続きを進めていくことにしました。
2月に入り、再度Aさん宅を訪問しました。
するとおもむろにドアが開き、
ひと月以上連絡の取れていなかったAさんと会うことができたのです。
「実はアルバイトを続けられなくなってしまい、食事もままならない状況なんです」
アルバイト先の方針が変わってしまい、契約を更新できなかったと嘆くAさん。
日々の生活にも困っていることから、転居先も探すことができず、
ゴミを片づける気力もなくなっていたとのこと。
「一緒にケースワーカーのところに行ってみましょう」
暗い顔のAさんとともに、担当のケースワーカーがいる自治体へ伺うと、
新居探しのお手伝いと新居が決まるまでの間の一時的な簡易宿泊所をご案内いただきました。
その結果、2週間ほどで新居も見つかり、
部屋のゴミは、保証会社と協力をして撤去を実施。
室内から30本以上の傘が見つかるような部屋から、必要なものだけを一緒に転居先へ運びます。
ゴミの撤去費用については、毎月可能な範囲で分割支払いする覚書を取り交わして
Aさんとは別れました。
その後もAさんの状況が気がかりで、
毎月、支払日の確認電話とお支払い後のお礼の電話をする際には
「最近どうですか?」とAさんのご状況を必ず伺うようにしてきました。
「今月はこれだけ面接に行ったんだけど、採用まではダメだったよ」
新生活の始まったAさんでしたが、
コロナ禍の影響で継続して働けるアルバイト先が見つからず、日雇いの仕事でなんとか過ごす日々。
転居当初は暗い表情をしていたAさんですが、
それでも心機一転して前向きになれたのか、積極的に職探しを続けていました。
転居から半年が経った昨年の9月末、久々にAさんを訪問すると、
「マンションの管理人の仕事が見つかったんだよ!」と顔をほころばせながら報告してくれたのです。
そして今年の1月末、ついにすべての支払いを完了することができました。
『ここまで頑張ってくれてありがとうございました。』と電話口でお伝えすると、
「自分は今の仕事に拾ってもらえた。だから本当にやりがいがあるんだよね」と
Aさんから口ぶりからは仕事の充実ぶりが伺えます。
さらに15年ぶりに福島の実家へ帰省することも決まったと嬉しそうに教えてくれました。
以前、私も訪れたことがある土地だったので、その時の思い出をお話しすると、
『だったらお土産買ってくるよ』といって声をはずませて約束をしてくれたのです。
半月後、約束通り帰省したお土産として「喜多方ラーメン」を頂くことができました。
滞納トラブルを解決するには、家賃の支払いを急かすのではなく、
まず入居者様と信頼関係を構築すること。
そして、問題を抱えた入居様に寄り添った対応をすることが、
滞納トラブルの円満解決につながると考えています。
さらに今回は私だけではなく、保証会社の担当者や自治体のケースワーカーなど、
多くの方と連携して、入居者様の問題を解決に導くことができました。
これからもお困りの入居者様がいれば、
お一人おひとりの生活に寄り添った対応に努め、
滞納トラブルを迅速、円満に解決していきたいと思っています。
日本財託管理サービス 債権管理部 馬場 裕一(ばばゆういち)
◆ スタッフプロフィール ◆
神奈川県横須賀市出身の46歳。
債権管理部に所属し、入居者が抱える問題に向き合い、
滞納家賃の回収や高齢の入居者様への定期訪問を行っています。
最近、自宅を購入したこともあり、妻と住みやすい家を少しずつ作り上げていくことを楽しみにしています。