ティータイムを楽しむS・Tさん

私には、看護師として働いている母がいます。

幼い頃、テレビのドキュメンタリー番組を見て、母にこんな質問をしました。
「飛行機で『お客様の中にお医者さんや看護師さんは居ますか?』って聞かれたらどうする？」

母はこう答えました。
「うーん、行かないかな。怖いし」。

看護師なのに、助けに行かないと答える母の言葉に衝撃を感じ、
（私だったら絶対助けるのに。母はなんて冷たい人なんだ！）と当時の私は思っていました。

しかし、ある出来事を通して、母がこのように答えた理由を理解したのです。

そのとき私は中学3年生で、母と地元・宮城県のショッピングモールにいました。
突然、ドーンという大きな物音がして、床が縦に揺れたのです。

音がした場所を見ると、私の5mほど先で、20代ぐらいの大柄な男性が泡を吹いて倒れています。
大きな音と揺れは、男性が後頭部を床に打ち付けて発生したものでした。

突然の出来事に、私の頭は一瞬のうちに驚きと恐怖で埋め尽くされます。
周囲の人も同様で、ただただその場で立ち尽くしているだけでした。

（どうしよう、どうしよう！？）
（私には何もできない。お母さんを呼びに行こう）

咄嗟にそう考え、隣の店にいる母の元に向かいました。

「お母さん...、人が倒れたの...」
恐怖のあまり震える声で母に事態を伝えると、
母はすぐに野次馬をかき分けて、倒れている男性のもとへ向かいます。

そこからの母は、無駄な動きが一切ありませんでした。
男性の呼吸の有無や、脈拍を確認。周囲の人には、AEDを持ってくるよう指示。
普段の母とはまるで別人のようでした。

母の対応の甲斐もあって、しばらくすると男性は意識を取り戻し、
係員の人も駆けつけて、現場は落ち着いたのです。

それでも、私の心臓はずっとバクバクし続けて、緊張が解けませんでした。
そんな私の様子を見て、母は優しくこう言いました。

「すぐにお母さんを呼んでえらかったね」

一番怖い思いをしたのは、母だったと思います。
そんな状況でも私を気遣ってくれたことに、母の深い優しさを感じました。

そして、ふと母が言っていた「助けに行かないかな。怖いし」という言葉を思い出します。
幼い頃は、冷たいと感じたこの発言も、人命の危機を自ら体験した後だと、
「人の命」と「命を救う責任」の重さを知っているからこその発言だと理解できたのです。

この出来事から、人の言葉や考えの裏には、
想像もつかないような、様々な背景があることを学びました。

そして、些細な言動でその人の性格を決めつけるのではなく、
そのような言動を取るに至った背景があるはずだと、考えるようになったのです。

この考えのもと、大学時代には、少年院で数学の講師を経験しました。
少年院という一般的にはあまり良いイメージがない環境に対しても、
特に偏見を抱かずに勉強を教えることができ、自分の価値観や経験を広げることができました。

これからも、偏見やイメージで物事を決めつけず、
様々な経験をして、スキルや人間力を磨いていくつもりです。
そして、私が母を無意識で頼ったときのように、
周囲から頼っていただける人間に成長したいです。

日本財託　コンサルティング本部　事務管理課　S・T

◆　スタッフプロフィール　◆
宮城県気仙沼市出身。
コンサルティング本部事務管理課に所属し、コンサルタントの販売活動のサポートをしています。
実家でウサギのうさこを飼っています。
ゴールデンウィークに帰省した際、触ろうとすると逃げられてしまい、悲しくなりました。